はじめに(抜粋)

 

 私は3年後に満70歳(古稀)を迎える。

 

 古来稀(こらい、まれ)なりと言われる節目を目前にして改めて思うのは「青春とは人生のある期間を言うのではなく心の様相を言うのだ」と説く作家サミュエル・ウルマンの有名な詩、「青春」の一節である。

 

 古来稀なりと言われた時代とは違い、昨今は、気持ちの若いご同輩が多い。それぞれが、さまざまに「答合わせ」をしておられるように思う。その手立ての1つとして、私が選んだのは、次代を担う若き医師たちに、自らの体験を伝えることであった。

 

 縁あって、今も白衣を身にまとい、外来や手術場で忙しく立ち働く生活をしている私にとって、それが最も自分の足跡を残す有効な方法であると思ったからだ。

 

 これまでに書き溜めたメモや講演録、友の会の会報に寄せた原稿などを踏まえ、日ごろ考えていることを加え、私が関わってきた、折々の出来事を縦糸に、そのときに去来した思いを横糸に、1年余りで編み上げたのが本書である。一般の読者の方々にも理解していただけるようできるだけ平易な記述に努めた。

 

 古今東西あまたの先達が著した医学的読み物の海原に、こうして、ささやかなる1冊を投ずることができるのは望外の喜びである。